もくじ
学校選びを誤った人の海外大学留学の巨大落とし穴!
学校選びを誤った人の残念すぎる末路を紹介して見ます。
今、海外大学進学に注目が集まっているが、留学エージェントのプランのままに、海外大学に進学すると危険だ。米国をはじめとする海外大学には複数の種類があり、それによって、大学のレベルも方針も難易度も大きく変わるからだ。誤った大学選定をすると、留学費用だけが多額にかかり、英語力もスキルも身に付かないまま数年を過ごすことになる。一方で、海外大学の入学審査をひもとくと、国内の難関大学に行けない学力であっても入学チャンスがあることも分かる。特集『入試・就職・序列 大学』(全23回)の#10では、海外大学進学の実情に迫った。
■ 日本の大学より、海外大学に入るべきか!?
「取りあえず留学」が危険な理由
今月初旬、徳島の私立文理高校に通う女子高生、松本杏奈さんが米国の名門、スタンフォード大学に入学するニュースが話題となった。松本さんは帰国子女ではないにもかかわらず、同大以外にも5校米国の大学に合格している。
こうしたニュースを聞けば、「国内大学に入学して海外留学するより、最初から海外大学を目指すべきかも……」と考える受験生や保護者もいるはずだ。実際、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤーエデュケーション(THE)」が出した「世界大学ランキング2021年版」を見ると、国内大学より海外大学に進学した方がいいように思えてくる。ランキング上位10大学は米英の大学が占め、アジアのトップは20位に入った中国の清華大学だ。
片や、トップ200大学のうち、日本でランクインしているのは36位の東京大学、54位の京都大学の2校のみ。これは、米英はもちろん、中国や韓国をも下回る校数である。東大・京大以外の日本の大学は、世界ランキングが急落しているのだ。
急落の原因の一つは、日本の大学の研究力が著しく低下していること。日本は論文の「量」においても「質」においても、世界順位が下がってしまっているのだ。
また、グローバルで活躍する人材が欲しい国内大手企業の目にも、海外大学を卒業した学生は魅力的に映る。英語力が身に付き、世界中の同世代と触れ合って国内の価値観にとらわれずに思考できるので、就職においても有利に働くのだ。事実、日英バイリンガルを対象とした就職イベント「ボストンキャリアフォーラム」では、参加学生に対して大企業がこぞってオファーをかける。
「教育レベル」「研究開発」「就職」で、三方良しの海外大学。しかしながら、徳島の女子高生のように、高校を卒業していきなり米ハーバードや英オックスフォードといった超名門大学に入れる学生は一握りにすぎない。
■ 海外の一流大学はやっぱり狭き門
特異なバックボーンや課外活動が必須
前提として、米国の大学に進学するための条件を解説しよう。
まず初めに、「入学が易しく、卒業が難しい」ということは、一般的にもよく知られているだろう。卒業が難しいのは実際その通りで、「(米国の大学は)授業のスピードがとても速いにもかかわらず、通年で70点を割ると退学になってしまう」のだと、アゴス・ジャパンで留学指導部マネジャーを務める松永みどり氏は説明する。
また、入学に関して言えば、例えば今年のハーバード大は5万7000人超の志願者がいたのに対して、合格したのがたったの1968人と、30倍近い倍率だ。それなのに、なぜ「入学が易しい」といわれるのか。
それは、日本のように単純な学力で測らないからである。実はトータルで見ると、米国の有名大学は日本よりもはるかに難しいともいえるのだ。
■米国の大学入学にまつわる5つの大前提
米国の大学の入学では、日本の大学受験のように1回のテストで合否を判断されることはなく、幾つかの条件が必要になってくる。
まず、入学の必要条件として求められるのが「高校の成績」だ。それなりの大学に行こうとすれば、日本で言うところのオール5に近い成績がなければまず厳しい。
続いて、米国の大学には「多様性を重視する考え方」がある。珍しいバックグラウンドを持つ学生は他の学生よりも優遇されるのだ。「名門大学ほど、同じ高校や地域から取るのを嫌う。入学後のディスカッションで多様な意見が出るように、国籍やバックグラウンドのバランスを考えて集める」のだと松永氏は言う。
そして、日本人に最もハードルが高い要件は、「課外活動の実績」が強く求められることだ。スピーチコンテストやディベート大会、海外ボランティアへの参加経験や、部活動での好成績など、高校生活の中でどんなことを考え、実際に行動を起こしたのか。そしてそれがどのような成果につながったかをかなり細かく見られる。
年間20人前後が入塾し、そのうちの9割をハーバードなど名門大学に輩出している海外トップ大学進学塾Route Hの責任者、尾澤章浩氏によれば、「年間300人ほどの入塾の応募があるが、名門大学に進学できる可能性のある学生以外は断っている。その代わり、レベルの合った海外大学に挑戦できるベネッセGLCというオンライン塾を勧める」と語る。
実際にRoute Hから名門大学に行った学生は、ディベートの世界大会で優勝していたり、高校生にして大学と共同研究を行って論文を学会で発表していたりと、普通の高校生ではあり得ない経験を積んでいるケースがほとんどだ。中には、世界大学ランキングで4位に位置する米カリフォルニア工科大学の大学院に、通信制高校を卒業した高校生が大学をすっ飛ばして合格したケースもあり、“天才”といえるレベルの学生が在籍していることも珍しくない。
また、日本を代表する進学校、開成高校では、2013年からOB組織「グローバル開成会」を発足して、現役生の海外大学進学の支援を行っており、海外で活躍する1200人もの開成OBが協力して、海外大学進学者を増やしている。
このグローバル開成会の発起人である富樫尚人氏も、「(海外大学進学を決める生徒は)チャレンジ精神の強いやんちゃな人が多い。東大の理三(理科三類)を蹴って海外に行く人もいたりするほどだ」と語る。卒業後のキャリアも、国内の枠に収まらず、例えば、開成高校からハーバード大に行った大柴行人さんは、20代でAIベンチャーを米国で共同創業した。
このように、課外活動やバックボーンに個性を持ち、高校の成績と英語力とで高いスコアを獲得することは、並大抵のレベルの高校生には難しい。しかも、留学生の場合は入学できる割合が決まっており、大学全体の合格者のうち10%ほど。現地の学生よりもかなり狭き門となる。
また、学力だけでなく、費用面でも高いハードルがある。4年制大学の学費は私立大学で年間700万円前後、州立大学でも同300万円ほどかかる上、そこに滞在費も乗ってくる。IELTS奨学金や日本学生支援機構の海外留学支援制度、柳井正財団の海外奨学金プログラムやKiyo Sakaguchi奨学金など、返済なしの奨学金も存在するが、奨学金をもらえたとしても学費と滞在費を全てカバーできるわけではない。
■ 「取りあえず海外大学」は危険!
知っておくべき米国の大学の種類
片や、費用面をクリアできるならば、このような名門大学には手が届かなくても、「そこそこのレベルの海外大学であれば入れるのでは?」と考える保護者も多いだろう。
この場合に気を付けなければならないのは、「取りあえず海外大学に行きさえすればいい」という考えだ。大前提として、米国をはじめとする海外大学は、入試制度や大学が求める人物像、教育内容まで、あらゆる点が根本的に日本の大学とは異なる。そして、ここからが重要なのだが、米国の大学は大きく5種類に分類され、それによってレベルも学生の質も全く変わってくるのだ。
このことを知らずに、「取りあえず海外大学に進学したい」「英語力を身に付けるために留学をしたい」と思い立って安易に留学すると、滞在費や時間だけを取られて帰国することになりかねない。
「子どもを海外大学に進学させようとする保護者と、私立中学受験をさせる保護者の層はかぶることが多い。良質な学習環境を求めて中学受験をしているのに、なぜか海外大学に進学させるときは環境を全く考えず、取りあえず海外大学ならどこでもいいと考えてしまう」
そう語るのは、米国留学の進路指導に40年以上の実績をもつ栄陽子留学研究所所長の栄陽子氏だ。
■ 総合大学からコミュニティカレッジまで
種類で違う米国における大学のレベルと質
米国の大学には、4年制大学と2年制大学が存在する。2年制大学であるコミュニティカレッジは日本の短期大学とは異なる特徴をもつので要注意だ。
コミュニティカレッジという名の通り、「地域(コミュニティ)」の住民への教育に力を入れており、地域住民であれば誰でも入学できる学校なのだ。学費も安く、何らかの理由で大学に進学できなかった幅広い年齢層の人たちが通っている。
英語力がなくても入れるため、実は「旅行会社などの留学エージェントがあっせんしている米国の大学進学は、このコミュニティカレッジであることがほとんど。しかし、米国の通常の大学レベルと比べると明らかに質が落ちるため、何も知らずに入ってしまうと、このレベルが米国の大学の標準だと勘違いしてしまい、そのレベルの低さに染まってしまう」と、栄氏は懸念する。
ただし、コミュニティカレッジの特徴として、卒業後に4年制大学に編入できるカリキュラムが組まれている学校もあり、狭き門ではあるが、それを目指していったんコミュニティカレッジに入学する日本人もいる。
また、4年制大学でも、ハーバード大やスタンフォード大などの私立の総合大学と州立大学、そしてリベラルアーツカレッジなどで、特徴が全く異なる(下図参照)。
■ 米国大学5種類の比較
特に総合大学への進学は注意が必要だ。ネームバリューのある大学であっても大学院が中心の学術機関であるため、教授たちは主に大学院生の指導に当たり、学部生は大学院生の助手に任せてしまうことも多い。丁寧にフォローするきめ細かさはなく、授業のスピードが速い。そのため、留学生だと誰にも質問できず訳が分からないまま落ちこぼれてしまうケースもある。ハーバード大や米イェール大学に行けば安心というわけではないのだ。
逆にリベラルアーツカレッジは少人数の全人教育で、一般教養からきめ細かく学ぶことができる。そのため、留学生にとっては安心できる環境だろう。
■ 実際どこの大学を選ぶのが最善?
そこそこの学力でも入れる進学先
要するに、世界ランク上位の名門大学に入るには、過酷な条件をクリアしなければならない。一方で、「取りあえず海外大学に行こう」と考えて留学エージェントのプランに従い質の低い環境に身を置くのでは、留学の意味がなくなってしまう。つまり、日本の海外大学進学は両極端なのだ。
では、そこそこの学力で海外大学に入ろうとした場合、どの選択肢を取るのが一番良いのか。それは、リベラルアーツカレッジやそれなりのレベルの州立大学に入学し、4年間海外で学ぶ。そして、大学院進学時に名門大学の大学院を目指すことだ。
「高校生から海外大学専門の塾に通い始めても、相当優秀でない限り総合大学に入ることは難しい。仮に入れたとしても、授業に付いていけずに苦しむことになる。ですが、リベラルアーツなどの目の行き届いた少人数大学で4年間学べば、名門大学の大学院に進学することはそこまで難しくない」と栄氏は主張する。
実際、大学受験時には自分の学力が届く範囲の海外大学に入り、最終的にハイレベルの大学院を卒業する日本人は多い。また海外は、日本のように一つの大学にずっと居座る感覚がなく、日本では学歴ロンダリングとやゆされるが編入学も当たり前に行われている。結局のところ、最終学歴が重視されるため、大学院のレベルが高ければ、その後のキャリアの選択肢は増え、選べる職種の水準も上げることができるわけだ。
本当の意味でグローバル人材になるには、短期間の語学留学やカジュアルな海外経験ではなく、もっと濃く深い海外体験が必要だ。そう考えると、海外大学進学という一つの選択肢になるといえる。海外大学の前提を理解し、正しい進学ができれば、同レベルの国内大学よりもはるかに、生き抜く力の備わった人材になれる可能性がある。