もくじ
「考える力」は脳科学的にみると面白い
◆体験させる
図鑑でアゲハチョウを見つけたら、虫取り網を持って公園に探しに行く。公園でモンシロチョウを見つけたら、図鑑でモンシロチョウを探す。電車が好きな子なら、カメラを持って電車を撮りに行く。お花が好きなら、虫メガネを持って観察に行く……など、必要な道具を与えて、親子で実物に触れましょう。
最初はお母さんやお父さんに、「これは何?」「どうして?」と聞いてくるかもしれませんが、根気よく一緒に図鑑を開きましょう。やがて自分で調べるようになり、自ら学びを深めていきます。そのとき、本人は「努力して勉強している」とは思わないでしょう。
昆虫やお花などに限らず、たとえばクルマ好きのお父さんならモーターショーに連れていってもいいですし、家族旅行をする前に、行き先の歴史や文化について、子どもに説明できるようにしてから出かけるのもいいですね。
バーチャルの知識(図鑑など)とリアルな体験が結びつくと、子どものワクワクは大きくなり、「知ること」に喜びや楽しさを感じます。それが刺激となって、脳に大きな成長をもたらすのです。
子どもにとって本当に必要な「考える力」とは、どんな力でしょうか。それは、ただ単にテストで高い点をとる力ではなく、「勉強しなさい!」などと言われなくても、自分から進んで学んでいく力ではないでしょうか。
◆「考える力」を育てるアプローチ
「考える力」と聞いて、具体的にはどんな力を想像しますか?
いずれ小学校に上がったとき、「テストの問題を解く力」も必要になってくるとは思います。しかし、それ以前に、「ものごとを自分で判断し、自分で学んでいく力」を身につけるほうが先決であり、それこそが、幼児期の子どもにとって最も大事な「考える力」なのではないでしょうか。
自分で考えて学べる子は、かしこくて発想も豊かです。素直で努力家で、親が「勉強しなさい!」などと口うるさく言わずとも、どんどん自分から進んで学んでいく力が備わっています。
そして、そういった力を生み出すのは、もちろん「脳」であり、脳医学から導き出した、子どもの「考える力」を育てるためのカギは、ずばり「好奇心」です。
「知ることが楽しくてしょうがない!」という状態になった子は、勉強を勉強とすら思わず、知識をどんどん吸収していきます。
ほとんどの子どもは、生まれながらにして好奇心をもっていますが、残念ながら、子どもの好奇心を生かしきれていない家庭も少なくないようです。
そこで今回、好奇心たっぷりの脳を育てるために提案したいのは、「図鑑を与える」「体験させる」「楽器に触れさせる」という3つのアプローチです。
◆図鑑を与える
幼児期のプレゼントは図鑑で決まりです。図鑑は脳の言語野だけでなく、図形や空間を認識できる領域を同時に活性化します。脳のしくみを考えると、できれば3~4歳ぐらいまでに図鑑を用意してあげたいところです。
子どもが好き嫌いを判断する前から、そっと身近に置いておくのがポイントです。図鑑が身近にあるだけで、自然と「文字」への興味が生まれますし、子どもが「なぜ?」と聞いてきたときに親子で調べるようにすることで、コミュニケーション・ツールにもなります。
幼児期から、ことあるごとに図鑑を開くようにしておくと、小学校へ進学したときに勉強をすらすらと理解できるので、「勉強が得意」「学校が好き」という気持ちを育むことにもつながります。
子どもが図鑑に興味を示さない場合は、親が楽しそうに読んでいる姿を見せましょう。子どもは親のことをよく見ていますから、親が楽しんで読んでいると、必ず横からのぞいて読み始めます。
子どもがまだ読めなかったり難しかったりするところは、親がかみ砕いて説明しましょう。
親であれば、自分なりの「理想の子育て」というものを考えているでしょう。もちろん、それぞれにちがっていいものですが、子育てには不安がつきものです。自分の理想に自信を持てない人もいるかもしれません。そこで、「理想の子育て」とはどんなものなのかを教えてもらいました。
自立するために必要な「困難を乗り越える力」
脳科学をベースとして子育ての研究を続けるなかでわたしがいきついたのは、子育ての最終目標は「子どもを自立できる人間に育てること」です。どんなに勉強ができても、どんなにスポーツで優れた力を発揮できても、他人に依存しなければならない人間は、将来的にしっかり生きていくことができないからです。
では、自立するためにはなにが必要なのかというと、そのひとつは「困難を乗り越える力」だと考えています。人は人生を歩むうえでいくつもの困難にぶつかります。それらを乗り越えられなければ、その先の人生を歩むことができません。
ところが、いまの子育てを見ていると、その大切な「困難を乗り越える力」を育む場面をわざわざ奪っているように思えるのです。それはきっと、子どもに対する愛情からなのでしょう。子どもがつまずく前から困難を排除する――。そういう親が増えているのではないでしょうか。
その場合、子どもは、親のそばにいるときには一度も挫折を味わうことなく成長していきます。でも、その子どもが親元を離れて社会に出たとしたらどうなるでしょうか。人生には困難にぶつかる場面が必ず訪れます。それが人生ではじめての困難だったとしたら……? 過去に困難を乗り越えた経験が一度もないのですから、たった一度の挫折で心が折れてしまうということになりかねません。
■子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
チャレンジに対してしっかり褒めることが大切
子どもの「困難を乗り越える力」を育むには、大ケガをするといった本当に危険なこと以外の小さな困難を乗り越える経験を、小さい頃からどんどんさせてほしいと思います。そして、そのチャレンジに対してしっかり褒めてほしい。
わたしには幼い息子がいます。わたし自身は子どもの頃からチャレンジ精神旺盛なタイプでしたが、息子は不思議なほど慎重派でした。そこで、妻とも話し合って水泳教室に通わせることにしたのです。
通いはじめたばかりの頃、教室の先生は息子を抱いて5秒間くらい水のなかに潜らせました。もちろん、水から顔を出した息子はすごくびっくりしている。じつは、先生はちょっとこわもて……(笑)。でも、その先生が、息子が水から顔を出した瞬間、「すごいね!」「よく我慢できたね!」と、こわもての見た目からは考えられないくらいに褒めちぎってくれたのです。
すると、息子はいまでいう「ドヤ顔」というか、まんざらでもない表情を見せました。おかげさまで、それ以降、すごく慎重派だった息子は新しいことにチャレンジしていくようになったのです。
夫婦喧嘩が絶えなければ、子どもの対人スキルが育たない
でも、いくら自立できる人間に育てることが大切だといっても、人はひとりでは生きていけません。他人の心がわかり、周囲といい関係を築いていけることも大切な力です。子どもをそういう人間に育てるには、なによりも夫婦関係を良好なものにすることを心がけましょう。
それには、脳科学的なエビデンスがあります。どんなエビデンスかというと、人間の脳にあるミラーニューロンという神経細胞の働きです。みなさんの目の前に笑っている人がいたらどんな気持ちになるでしょうか。あるいは怒っている人ならどうでしょう。前者なら幸せな気持ちになって、後者なら嫌な気持ちになるはずです。つまり、目の前の人間の行動を見て、自分も同じ行動を取っているかのように反応するわけです。これがミラーニューロンの働きです。
では、両親が子どもの前でつねに喧嘩をしていたとしたら? 子ども自身は喧嘩をしていなくとも、心はつねに誰かと喧嘩をしているときと同じ影響を受けるのです。そして、その子どもは、将来的に人間関係の問題を起こしやすくなるというわけです。
また、ニューヨーク大学の研究によれば、両親が暴力的な家庭に育った子どもは、他人の感情を読む力が衰えるということもわかっています。心を閉ざし、暴力的な親など他人の感情を読まないことで自分を守ろうとしているのです。これでは、大人になったときに周囲と良好な関係を築けるはずもありません。
子どもの長所に目を向けて自信を持たせる
それから、夫婦喧嘩をしないことのほかに、子どもの長所に目を向けてあげることも親の大切な役割です。謙虚であることがいいとされる日本文化の影響なのか、「うちの子はなにをやらせても駄目で……」といったことをいう親も多いものです。
でも、考えてみてください。あなたの目の前につねにあなたに駄目出しをする人がいたらどうでしょうか。嫌な気持ちになるし、どんどん自信を失っていくでしょう。「うちの子はなにをやらせても駄目」という親は、自分の子どもに対してそれと同じことをしているわけです。
そうではなく、子どもの長所に目を向けて、その長所を子どもに伝えてあげる。それこそが、親がやるべきことです。わたしが講演会で親御さんたちによくやってもらうのが、「10分間で20個の子どもの長所を書き出す」ということ。これをやると、子どもの見方がまったく変わります。
最初は、勉強やスポーツに関することなど、わかりやすいところに目が向くのですが、20個を書き出すとなると、「嫌な顔をせずにお手伝いをしてくれる」「友だちと仲良くできる」というふうに、普段はあまり意識していない点についても目を向けることになります。
そして、その長所を子どもに伝えてあげるのです。直接話してもいいですし、書き出したものを子どもの目につくところに貼ってもいいでしょう。それを見た子どもは、それこそ自立して生きていくために必要な自信を身につけてくれるはずです。