左上から時計回りに、早稲田大大隈講堂、立教大モリス館、明治大リバティタワー(撮影/吉崎洋夫)、同志社大彰栄館(c)朝日新聞社
主な合併シミュレーション (週刊朝日2021年1月15日号より) 大学に合併・再編の波が押し寄せている。18歳人口の減少のためで、入学定員を満たせず、定員割れする大学が相次ぐ。
すでに国公立大は統合に向けて動いているが、私大では今後、どんな合併があり得るのだろうか。あくまでも専門家による予想だが、そのシミュレーションをもとに分析した。
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「慶應とはまた差がついた感じがあるね」
こう苦い顔をしながら言うのは早稲田大の関係者だ。昨年11月下旬、慶應義塾大と東京歯科大が合併に向けて協議を始めることが発表された。
2008年に共立薬科大との合併で薬学部ができたのに続き、歯学部も開設されれば、日本で初めて医・歯・薬・看護の医療系4学部を持つ総合大学となる。研究力・教育力が高まり、ブランド力はより強化される。
一方、後塵(こうじん)を拝する形の早稲田大にも医学部設置に向けた動きがある。医学部は創設者・大隈重信の悲願であり、設置に向けて歴代の総長が取り組んできた。卒業生の間にも、医学部の有無が早慶の差と考える向きもある。
早稲田大が目指すのは、医科単科大との対等合併だ。これまでも合併の提案などはあったとされるが、実現しなかった。
「単に合併すればいいというわけではない。財政的にも健全な相手と、医学に貢献できるという見立てがあった上で、合併を考えないといけない」(前出の同大関係者)
そうした中で有力候補として注目されているのが、日本医科大だ。早稲田大の付属・系属校である早稲田実業、早稲田高等学院、早稲田本庄高等学院の3校と高大接続連携の協定を調印し、指定校推薦の枠を2人ずつ設けた。両大学とも「合併の話はない」というが、前出の同大関係者は言う。
「連携が深まれば、合併という話に進展することは十分にある」
いま、こうした合併に向けた動きが水面下で行われていると言われる。
背景にあるのが、18歳人口の減少だ。文部科学省の資料によると、1992年の205万人をピークに減少に転じており、20年には117万人、40年には88万人にまで減少する見込みだ。
私大の経営状況を調査する日本私立学校振興・共済事業団によると、全国593校のうち、入学定員を満たしていない大学は184校(31%)にも上る。赤字になっている大学も多い。
「今後、私大の合併は出てくる」
こう語るのは、大学経営コンサルタントで大学選びにも精通する加藤雄次さんだ。
「新たに学部をつくるとなると費用や時間、労力もかかるため、合併が経営力を強化するための効率的な手段となる。まずは大規模有力大学やオーナー系大学など組織力や決断力のある私大による合併が先行するのではないか」
それでは具体的にどんな合併が可能性としてあるのか。予想ではあるが、大学関係者や専門家にシミュレーションをしてもらった。
もくじ
共通して指摘があったのは、単科大と総合大との合併だ
早稲田大だけではなく、明治大、中央大など東京の有力な総合私大には医療系学部を持っていないところが多い。関西も同様で、同志社大、関西学院大、関西大にはない。一方で、近隣には医療系の単科大がある。
合併に向けて重要になるのが、教育連携や共通項の有無だ。
例えば、明治大と順天堂大は15年に大学間交流に関する包括協定を結んでいる。立地も近くて連携がしやすく、合併に発展する素地がある。
上智大は11年に看護学部を持つ聖母大と合併し、14年には聖マリアンナ医科大と大学間交流の包括連携協定を締結している。いずれの大学もキリスト教カトリックの精神を持っており、「合併も視野に入れているのでは」という見方もある。
かつて立教大と看護系の学校を持つ聖路加国際病院との合併の話もあった。立教大と聖路加国際病院は米国聖公会の宣教師によって創設されており、戦時下と戦後に、合併し立教大に医学部を設置する動きがあった。同大の理学部は医学部設置に向けた前段階として作られた経緯がある。
武蔵野美術大と多摩美術大も、実は同じ一つの大学だったという歴史がある。帝国美術学校として創設され、1935年に分裂している。美大の早慶と言われる両大学が合併すれば、美術系では東京芸術大にも匹敵するという期待もある。
買収を予測する見方もある。関西では京都先端科学大が30年を目標に医学部を設置することを掲げている。同大を運営する学校法人「永守学園」の理事長は、日本電産の永守重信会長兼CEO(最高経営責任者)で、経済誌フォーブスによると永守会長の資産は3千億円以上。同学園は今年4月、中学・高校を持つ学校法人「京都光楠(こうなん)学園」と合併する予定で、積極的に動いている。将来的には東京女子医科大などを買収する動きを見せるのでは、との予想もある。
教育ジャーナリストで大学業界に詳しい神戸悟さんは、こんな指摘をする。
「とがった大学同士の合併もあり得る」
例えば、国際教育に強い神田外語大と、経営分野に定評のある産業能率大、広く工学系の学部を持つ東京工科大の組み合わせだ。いずれも卒業生の評判は良く、互いに強みを生かせるという。
オンライン授業を実施する学校の合併も相性がいいと神戸さんは見る。
ネットで高校の授業を受けることができるN高と、通学せずに学士号が取れるサイバー大、経営学修士(MBA)が取れる大学院を持つビジネス・ブレークスルー大との組み合わせだ。海外にも米国のミネルバ大など全ての授業をオンラインで実施するところもあり、海外大との合併も考えられる。
理工系同士の合併も可能性はありそうだ。例えば、東京都市大、芝浦工業大、東京電機大、工学院大の「大理工大」だ。受験生は学部・学科を決めて志願するが、入学後に関心が変わるという学生も多い。研究室を選ぶ際に大学を超えて選べるようにすれば、学生にとって大きなメリットが出ると神戸さんは見る。
「大理工大構想。ここに千葉工業大が入ってもいい。東京理科大にも匹敵する魅力を持つと思う。駒澤大、専修大など文系中心の大学と組めば、さらに研究力、教育力を強化できる」
こうしたシミュレーションの一方で、すでに統合に向けて話が進んでいる大学もある。積極的なのは国公立大で、昨年4月には名古屋大と岐阜大が経営統合し、東海国立大学機構を設立した。北海道では国立の小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大が22年4月の統合に向けて動いている。大阪では大阪府立大と大阪市立大が22年4月に統合し、大阪公立大になる予定だ。
また、前京都府知事・元全国知事会長で、中央教育審議会臨時委員でもある山田啓二さんは言う。
「地方私大の合併・再編に向けた動きは始まっている」
文科省は昨年10月、「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン」を発表した。このプラットフォームは各地域で大学や自治体、産業界などが課題などに関して対話をする場だが、地域の現状に即した大学の再編、統合なども検討課題になると見られている。こうした取り組みを経て、各地の私大同士の連携が深まり、合併・再編に向けた動きも進んでいきそうだ。
「合併・再編ありきではなく、地域がビジョンを描いて、高等教育をどうするべきか考えていく必要がある。その中で私大同士の連携、学部の再編、さらには合併という選択肢も出てくる」(山田さん)
京都府立大と京都府立医科大の合併・連携の仕方にも山田さんは注目する。両大学とも歴史があり、その独自性が失われる懸念があったが、新しく学校法人をつくり、そこに2大学を残すことで統合を果たした。さらに国立の京都工芸繊維大と連携し、教養教育の共同化を実現した。京都市に本社を置く京セラの稲盛和夫名誉会長から20億円の寄付などを受け、施設を建設した。
「それぞれの大学の良さを残しながら、多様な学生が集まり、ないものを補い合いながら学ぶことができている。この合併・連携のあり方は私大でもあり得る。ただ、地方では合併に伴う資金が足りない可能性がある。強い大学同士が合併するだけでは、格差が広がるばかりだ。政府は補助金をつけるなど地方私大の取り組みを支援する必要がある」
学生にとっていかにいい学びの場を残し、発展させられるか。国にも大学にも戦略が求められている。(本誌・吉崎洋夫)
(AERA抜粋)
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