もくじ
東大合格者を増やす首都圏の学校 地方は医学部志向強し
それでは東大合格者が増えている学校から見ていこう。トップは渋谷教育学園幕張だ。83年に創立され当初の進学実績はあまり目立たなかった。それが当時としては珍しいシラバス(授業計画)をはじめとする情報開示を積極的に行うなど保護者からの期待を集め、進学校としての評価を上げたことが短期間での実績アップにつながった。
2位は渋谷教育学園渋谷だ。前身の渋谷女子から96年に改組を行って共学の渋谷教育学園渋谷となり、1位の渋谷教育学園幕張と教育理念やシステムを共有することで、急激に合格実績を伸ばしている。
3位の桜蔭は東大合格者ベスト10の常連校、4位の開成は、39年連続東大合格者1位の学校だが、ともに今春は例年より合格者を増やしたことでランクインしている。
5位は横浜翠嵐だ。神奈川の公立校は、以前は低迷が続いていたが、05年の学区の撤廃や07年の学力向上進学重点校の指定、公立一貫校の設置など大きく改革が進められ、進学実績をアップさせてきている。7位の湘南、15位の南もその成果といえるだろう。同様に、東京も都立校を進学指導重点校に指定したり、公立一貫校を作るなど教育改革を進めており、11位の戸山、13位の都立武蔵、18位の大泉など、着実に成果が出てきている。
今年の全国の東大合格者ランキングベスト20だ。ここでも圧倒的に私立校が強く、一貫校は国立校を含めて18校になる。なかでもトップの開成をはじめ、2位の筑波大付駒場、4位の灘、6位の麻布、7位の駒場東邦など、20校中13校が男子校だ。また女子校でも桜蔭が3位、女子学院が18位に入っており、男女別学校の大学合格実績の高さがはっきりと分かる。
ランクインしている学校はいずれも進学校として名高く、毎年、大学入試で高い合格実績を残している。しかし、すべての上位校が、10年前に比べて東大合格者数が目立って増加しているわけではない。なぜ合格者数が伸びていないのか。
ひとつには、価値観の多様化により、東大にこだわらず、医学部や海外大学への進学を希望する生徒が増えていることがある。なかでも上位校では医学部人気が高く、東大の理Ⅰや理Ⅱよりも他の国公立大医学部を目指す生徒が多いことも一つの要因だ。
国公立大医学部・医学科現役合格者ランキングだ。上位20校中17校が私立一貫校で、東大ランキングと同様に私立の強さが際立っている。
トップの東海は日本で毎年、もっとも多くの医師を輩出しているといっていいほど、医学部進学者がたくさんいる。2位の久留米大付設、3位の灘は卒業生占有率(卒業生数に対する割合)がそれぞれ21.7%、19.5%と高く、医学部志向の強さがうかがえる。4位には洛南、5位には札幌南、6位には愛光と、医学部に強い常連校が並ぶ。
特徴として、上位20校のうち、首都圏の学校は豊島岡女子学園、聖光学院、渋谷教育学園幕張、桜蔭、海城、日比谷の6校にとどまり、国公立大医学部が首都圏以外の学校で人気が高いことが分かる。医学部は根強い人気があるにも関わらず、首都圏の学校で合格者数が伸びない理由には様々な要因がある。
まず、首都圏では地元にある医学部より東大の人気が高くなっていることだ。首都圏では国公立大医学部の定員枠が比較的小さい上、東大・理Ⅲや千葉大、東京医科歯科大など、難関大ばかり。その一方で、慶應義塾大をはじめ、日本医科大や順天堂大など、有力な私立大医学部が数多くあり、わざわざ無理して地方の国公立大医学部に進学しなくていいことも大きな理由になっている。
次に難関私立大について見ていこう。まずは慶應義塾大だ。トップには表1で2位の渋谷教育学園渋谷と、同じく5位の横浜翠嵐が54人増で並ぶ。
3位の市川は、教科を連携したコラボ授業など、生徒が積極的に授業に関わる独自の学習カリキュラムにより、難関大への合格実績を伸ばしている学校だ。4位は東京都市大付、湘南、洗足学園の3校が36人増で並んでいる。上位5位までの間に慶應義塾大の日吉、矢上、湘南藤沢の3キャンパスがある神奈川から3校がランクインしている。
続く早稲田大では、4位の東京都市大付がトップ。東京都市大付は高校募集のない完全中高一貫校で、そのメリットを生かし、6年間を前期・中期・後期に分け、発達段階に応じた教育プログラムを展開することで難関大の合格者を大きく増やしている。2位には朋優学院、3位には吉祥女子と広尾学園が入った。
ランキング全体では東京と神奈川の公立校が数多く見られる。東京では6位の九段中教、9位の両国、13位の豊多摩など6校、神奈川は8位の川和、9位の湘南、12位の南など4校。東京、神奈川の公立校の教育改革の成果が表われている。
東大合格者ランキングでは男子校の多さが目立っていたのに対し、東大や早慶をはじめとする私立大合格者の増加数ランキングでは、多くの共学校や女子校が登場している。以前は女子の進学先と言えば文や家政系の学部というのが一般的だったが、近年は社会科学系、理工系、医療系などを含め進路に多様性が出てきている。国公立大、私立大ともに女子受験生の進出が顕著になってきており、それが大学合格実績に反映されているといえる。
また、首都圏の上位校に早慶人気が高い理由は、東大をはじめとする難関国立大の併願校として定着していることが挙げられる。その背景には受験生の現役志向の高まりも見過ごせない。経済的な問題もあって、浪人するよりは現役で進学する生徒が増えている。早慶などの難関私立大は就職もよく、国公立大を上回る実績を残している。そのため、浪人すれば東大に合格できる実力があっても、現役進学を優先して早慶などの難関私大に進学するわけだ。
女子受験生の受験動向が変化 “リケジョ”の増加で理系人気高まる上智大のランキングだ。1位は学習院女子、2位は広尾学園、3位は国際になった。
上智大はカトリック系の大学で英語をはじめとする語学教育に力を入れているため、女子学生の比率が高いのが特徴で、女子受験生から人気を集めている。上位20校は全て女子校と共学校が占め、男子校はない。しかし今後は、国際系人気の高まりもあって男子校の割合も増えてくるかもしれない。
上智大合格者が増えている学校上位20校伸びている学校はここだ! 2010年と2020年の大学合格者数を比較 総合第1位は東京都市大付!早稲田大でトップなど難関7大学でランクイン
次に東京理科大を見てみよう。1位は昭和学院秀英、2位は日比谷、3位は東京都市大付だ。理系というと、男子が多いと思いがちだが、近年では“リケジョ”と言われる理科系女子が増加している。リケジョには主に医、歯、薬、看護など医療系学部の人気が高いが、理、生命科、農、理工などの学部でも女子受験生が増えている。東京理科大の合格者増加数のランキングでも、上位20校のうち男子校は3校にとどまり、ほとんどが共学校で、女子校では桜蔭が4位にランクインしている。
キャンパス移転、新設が活発で通学範囲が変わることにも注意
青山学院大を見てみよう。03年に人文・社会科学系学部の1、2年生が学ぶ厚木キャンパスを相模原に移転し、あわせて世田谷キャンパスの理工学部も相模原キャンパスに移転した。さらに13年からは大半の文系学部が4年間渋谷の青山キャンパスで、理工学部と社会情報学部、地球社会共生学部、コミュニティ人間科学部が相模原キャンパスで4年間学ぶことになり、人気がアップしている。合格者増加数ランキングでは、1位は柏陽、2位は稲毛、3位は北園、三田と、トップ3に神奈川、千葉、東京の学校が並んだ。
青山学院大も表6の上智大と同じく女子からの人気が高く、上位26校すべてを共学校と女子校が占めている。また東京が11校、次いで神奈川が8校と、神奈川からの人気も高まっている。女子の場合、大学へは自宅通学する人が多いことから、キャンパスの再配置により4年間相模原キャンパスで学べるようになり、通いやすくなったことで神奈川の女子受験生からの人気が高まっているようだ。
近年、キャンパス改革とともに学部改革が進んでいる。現在の中学・高校受験生が大学に進学する頃には、さらに選択肢が増えているだろう。これから大学で勉強したいことを念頭において、大学の動きに注意することが大切だ。自分の将来に大きく関わるニュースがあるかもしれない。特に大学付属校を目指す人は早い時期から大学の情報集めをすることが必要だ。エスカレーター式に大学進学と考えても、併設の大学に自分が学びたい学部・学科がないことも考えられるからだ。また、大学受験を前提としている進学校を目指す人にとっても、大学のことをよく知ることはモチベーションのアップや進路の決定に大きく関わるので重要だ。まだ3年、6年先のことだと片付けないで、自分がどんな大学へ行って何を学ぶのかを考えるようにしよう。
立教大の1位は北園で、2位は三田、3位は朋優学院だ。立教大も上智大、青山学院大と同じく女子の人気が高く、上位22校を見ると共学校と女子校が20校、男子校は2校のみ。また、埼玉、千葉、神奈川と幅広い県で合格者が伸びている。これは池袋キャンパスのアクセスの良さが影響していると考えられる。13年3月に、東急東横線と東京メトロ副都心線が相互乗り入れし、横浜と池袋が結ばれた。これが4位の金沢、6位の柏陽、12位の光陵など、神奈川の学校からの合格者増につながっている。
11大学合計のトップの伸びは各大学で上位にランクインした東京都市大付
表10の中央大では、トップは立川、2位に県立浦和、3位に大宮開成が入った。中央大は理工学部を除いて東京の西部にキャンパスがあるため、ランキング全体では6位の日野台、9位の国立、12位の南平など東京の多摩地区や神奈川の公立校の伸びが目立つ。
明治大では1位川和、2位東京都市大付、3位城北だ。ランキングを見ると、早稲田大や慶應義塾大の増加数ランキング上位20校にランクインしている学校が数多く見られ、早慶と明治大を併願する受験生が多いようだ。上位22校のうち20校が、明治大のキャンパスのある東京と神奈川で占められているのが特徴だ。なかでも、中野キャンパスのを開設した効果で東京の学校が増えている。
法政大では、大宮開成と朋優学院が75人増で並び、3位は山手学院という結果になった。上位20校中で男子校は1校、残り19校が共学校というのが大きな特徴で、これまで男子のイメージが強かったが女子の受験生が増えてきているようだ。
最後に、今まで見てきた東大、早稲田大、慶應義塾大、青山学院大、立教大、中央大、明治大、法政大に、京大、東京工業大、一橋大を加えた、11大学の全合格者合計を10年前と比べたものだ。
増加数トップは表4、表5、表7のほか、表9から表12までのランキングで上位に登場し、うち早稲田大でトップだった東京都市大付で、合計478人増の大躍進だ。2位は慶應義塾大、早稲田大、上智大、立教大、明治大などが増えた広尾学園、3位は早稲田大、上智大、青山学院大、立教大、法政大などが増えた朋優学院と、早稲田大、青山学院大、明治大、法政大などが増えた川和だ。国立大にあまり合格者がいないものの難関私立大に強いタイプの学校も見られる。また、上位20校のうち、公立校は11校だった。なかでも3位の川和、5位の柏陽、8位の湘南など神奈川の公立校が5校、7位の三田、10位の立川、11位の九段中教など東京の公立校が6校ランクインし、神奈川と東京の教育改革の成果による躍進が目立った。
さて、ここまでの大学合格実績を見ながら、学校がそれぞれに特色を持っていることや、大学が入試に独自の傾向を持っていることなど、いろいろなことが読み取れたと思う。大学合格実績が学校選びに重要な要因であることがお分かりいただけたでろうか。
毎年、合格実績のアップダウンで翌年の私立中高の志願者数が増えたり減ったりすることが多くなっている。特に東大合格者が1人出ると、中学入試で人気になることがよくある。しかし、大学合格実績だけで学校選びをするのは得策とは言えない。学校の教育方針、校風などもあわせて検討し、学校選択をする必要がある。
各校では生徒の実力を伸ばすために何に力を入れているのかを見究め、学校選びを行っていかなければならない。学校改革は大学合格実績に反映され、伸びている学校の顔ぶれは年々、変わっている。悔いのない志望校選びをしてほしい。