もくじ
【徹底調査】 東大理Ⅲのテストで 東大医学部に合格した人たち!
日本でトップ0.01%の「頭脳」を持つ彼らは本当に幸せなのだろうか?
東大医学部合格が意味することは、2つあると思います。日本で最も勉強に秀でていること。そして日本一の権力を持つ医局に入る切符を手に入れたことです。だがそれは決して、幸福への切符では、ないことをここでは説明したいと思います。
第1部・出身校は灘、開成、桜蔭で4割超
どこまで難しい?東大理Ⅲのテスト
偏差値79。東京大学の医学部コース・理科Ⅲ類は、日本最難関と言われる東大の6つある科類のなかでもダントツの最難関。それは今年の東大入試の合格最低点を比べれば一目瞭然だ。
理科Ⅰ類315・7点
理科Ⅱ類302・7点
理科Ⅲ類370・4点
理科Ⅰ類は工学部・理学部コース、理科Ⅱ類は農学部・薬学部コースである。
これを見てわかるように、場合によっては、0・1点刻みの勝負になる東大入試において、理Ⅲの合格ラインは、理Ⅱより約70点も上にある。
理Ⅲが東大生の中でさえ、住む世界が違う、と言われる所以である。理Ⅲはいわば、日本の大学受験におけるひとつの頂点なのだ。
東大合格者約3000人のうち、理Ⅲはたった100人程度。日本の1世代あたりの人口を100万人強として単純計算すれば、同世代の上位0・01%の頭脳を持つ英才たちが理Ⅲに集結することになる。彼らはいったいどれほどアタマがいいのだろうか。
開成高校卒の理Ⅲ現役合格者Aさんは、なんとセンター試験の数学Ⅰ・AとⅡ・Bをともに、制限時間60分のところを30分で解いたという。
しかも両方とも100点満点。超人技のように思えるが、彼は「全然自慢するようなことじゃありません」と言う。
「理Ⅲの受験者なら僕なんて平均かそれ以下の学力だと思います。
高校の同級生に、『センター数学くらいならすべて暗算で解いたほうが早い』とうそぶいている奴がいて、センター試験終了後に問題用紙を見せてもらったら、本当に途中式も何もなく真っ白なので驚きました。
消しゴムの跡も一切なく、ただ答えだけが書き込んであった」
Aさんは本来3年生が受ける東大模試(東大即応オープン)を2年の冬に飛び級して受け、見事B判定(合格圏内)を勝ち取った。
「意外にいけるんだ、と思いました。理Ⅲを本格的に意識したのはその判定を見てからですね。それまでは理Ⅱ志望でしたから。
勉強時間は平均すると一日3時間くらいだと思います。
東大合格者の平均は6時間らしいですが、僕は集中があまり長く続くタイプではなかったんです。勉強自体は好きではないですし。
それに2ちゃんねるが好きで、どんなに受験勉強が忙しくても、最低でも一日2時間は2ちゃんを見る、ということにしていて、センターや二次試験前日も欠かさず見ていました。
それがいい精神安定剤になっていたんじゃないかな、と思います」
「趣味」を続ける余裕を持ちながら、軽々と理Ⅲに合格してしまったAさんは、少なくとも「受験勉強レベル」で見れば十分、天才の部類に入る人である。
一方で、理Ⅲ生にもう一つ多いのが、「根っからの勉強好き、競争好き」タイプの人間だ。西の名門、灘高校出身の理Ⅲ合格者Bさんは、勉強マニアと言っていいほどの勉強好きだった。
「一日の平均勉強時間は8時間くらいだったと思います。1月に入ってからは10時間以上やってました。
勉強はやったらやった分点数が伸びるので、面白い。
ただ自分の中では中学受験のほうがよく勉強したような感覚ですね。
小学4年生から希学園という塾に通っていて、夜遅くまで勉強していた記憶があります。
6年になると、授業が23時頃まであって、帰って風呂に入って、寝るのはいつも24時過ぎでした。
灘中・高では、鉄緑会という塾に入って膨大な宿題をこなしました。
6年間モチベーションを保つのは大変でしたが、高校に上がるときに、『高校から灘に入ってくる40人は学力が高いから、下から上がる奴らの順位は例年がくんと落ちる』という噂が流れてきたときは燃えました。
やっぱり同じ面子で競っているよりは、新しい敵が来たほうが刺激になります」
今年の東大理Ⅲ合格者は、灘27名、開成8名。
これに女子のトップ校・桜蔭高校の4名を加えれば39名に達する。
年によってはこの3校だけで4割を超すこともある。
開成の卒業生で東大医学部OBの作家・石井大地氏が語る。
「東大理Ⅲの最大の特徴は、都市圏の中高一貫校出身者が7~8割程度を占めるということです。
他の学部では合格者の母数がもっと多いので、地方の県立トップ高校の学生の割合が高く、ここまで寡占状態になることはありません」
理Ⅲ合格者のインタビュー集『天才たちのメッセージ?東大理Ⅲ』の昨年版で行ったアンケートによれば、理Ⅲの出身高校割合は「私立」が88・7%と、圧倒的だった。
「こうした学校は、多くが男女別学です。別学の進学校というのは、どこも空気が似ていて、必然的に理Ⅲにはその別学進学校のムードが持ち込まれます。
ですから大多数の理Ⅲ生にとって理Ⅲは、そのまま高校の延長線上にあり同じノリで生きられてしまうわけです」(石井氏)
中高の6年間、そして大学の6年間、あわせて12年間、同じような環境で生きることになる。
裏を返せば、地方の公立校などで抜群に勉強ができる高校生でも、彼らと競って理Ⅲの入学テストを突破するのは、まさに至難の業ということになる。
ある開成卒の東大医学部生は、研修医として外の病院に出たときにはじめて「世界は灘と開成だけじゃないんだと悟った」という。つまり、理Ⅲおよび東大医学部とは、それほどに同質的で、閉鎖的な世界なのである。
では東大医学部生のキャンパスライフとはどのようなものなのだろうか。
まず、理Ⅲ生の多くは、意外にも講義にはあまり出ないという。
「理Ⅲに入って驚いたのは、講義に出席しなくても許されることですね。
試験さえ通れば単位はとれるので、ほとんど学校に行かなくていい。
みんな講義にはあまり出ていませんでしたよ。
私の場合、解剖実習は出席点があったのでさすがに出ましたが、3年に上がってからの4年間で、講義は3回しか受けていません」
講義に出ないからと言って、それくらいでついていけなくなるレベルの学生は理Ⅲにはいない。彼らは要領よく単位を稼ぎ、その空いた時間をバイトに充て、金銭も効率的に稼ぐ。和田氏が続ける。
「理Ⅲ生というだけで、家庭教師の時給が抜群にいいんです。
8000円や1万円はザラ。1泊2日で20万もらったという友人もいました」
「鉄門」に入部できる人
勉強はできるわ、要領はいいわ、カネはあるわ、理Ⅲ生は東大のなかでもあらゆる面で、図抜けた存在だが、なにより理Ⅲ生は東大の学内で圧倒的にモテる。
「東大女子はずっと成績の優秀さで生きてきた偏差値の生き物。
だから自分より偏差値が高い人間には逆らえないし、無条件に尊敬してしまう。
そういう意味では医学部生は偏差値の頂点ですから、東大女子にモテるのは当然。
理Ⅲの彼氏がいる、と言ったら自慢できるし、東大内ヒエラルキーの底辺である文Ⅲ(文学部、教育学部コース)の女子が、理Ⅲの男子を捕まえようものなら、ちょっとした事件ですよ」(教育学部4年女子)
あまり知られていないが、東大には医学部生しか入れない部活がある。
「鉄門サッカー部」「鉄門水泳部」など、その名に東大医学部正門である「鉄門」を冠する部がそうだ。
表向きは「長くても4年で引退を迫られる全学の運動部と違って6年生までいられるから便利」という理由で、理Ⅲ生の5割程度がこの部に入る。
実はこの一見排他的な組織が、理Ⅲ生が学外女子にモテる源泉なのである。
というのも、鉄門部は他大の女子には広く門戸を開いているからだ。
その結果、鉄門部にはマネージャー志望の女子大生が殺到する。
「ろくに勧誘もしないのに、自分から調べて連絡を取ってくるんです。
鉄門サッカー部や鉄門バスケ部は特に多くて、男子部員は20人程度なのに、女子マネージャーが30人近くいて、人数が逆転してしまったこともあったようです」(医学部3年)
当然、マネージャーはそんなに必要ない。本当にマネージャーの仕事をするのは、各部2~3名程度で、あとはコンパ(飲み会)や合宿にだけ参加する。
多いのは聖心女子大、白百合女子大、東京女子大、日本女子大といった大学。
彼女たちの目的はもちろん「東大医学部卒」というブランドへの永久就職だ。
実は医学部しか所属できない運動部というのは、東大に限らず各大学に存在し、医学部同士でリーグ戦などを行う。
だがやはり、東大の鉄門部が女子大生の一番人気だという。
「理由は東大医学部の男が特別チョロいから。実際に結婚した女子大の先輩を何人も知っています。
簡単に落とせるという噂を聞きつけて2年から入部する女子も少なくありません」(鉄門部に所属する東京女子大3年)
理Ⅲ生も馬鹿じゃない。鉄門部にたかる女子大生たちの腹の中は察している。いや、馬鹿じゃないからこそ、脳内では様々な予防線を張る。
「カネ目当ての女と結婚した場合、熟年離婚のリスクが高いのではないか」
「中途半端な学歴の女性と結婚すると、相手がそこにコンプレックスを抱いて教育ママになってしまうのではないか」
などなど。だが実際には「話を聞いてくれた」「笑ってくれた」「ボディタッチをされた」、ただそれだけで予防線は突破されてしまう。
「みんな言わないようにしているんですが、理Ⅲ男子って童貞が圧倒的に多いんですよ。それは単に男子校出身者の割合が高いからです」(医学部6年)
前出の東京女子大3年が明かす。
「理Ⅲ男子を落とすには3つの鉄則があります。
ひとつは、よく笑うこと。笑っているだけで彼らは自分に好意を寄せていると錯覚します。
次に自分の意見を言わないこと。女子に強く出られると怖がってしまうんです。
最後に、なんでも質問すること。理Ⅲ男子は教えたがりなので、わからないふりをして質問していれば勝手に気持ちよくなってくれます」「傾向と対策」を練って難関を突破してきた理Ⅲ生も、「傾向と対策」を練られてしまうと弱い。
東大医学部といえど、万能ではないのだ。
第2部?東大医学部の「伝説」??
「出身者の2割は発達障害」は本当なのか
「『生年月日はいつですか?』フットサルサークルの新歓コンパに行ったら、ある医学部4年男子の先輩にいきなり聞かれました。
とりあえず『1992年7月12日』と答えたら『うん、覚えた。イ・ビョンホンと同じ誕生日だね』と言って、また別の人に『生年月日はいつですか?』と聞いていた。
?なんだったんだろう、と思ったんですが、次会ったときはいきなり『1992年7月12日だよね?』と声をかけられてびっくりしました。
いままで会った人すべて、生年月日で覚えているんだそうです。
理由を聞いたら『見た目は変わるけど、生年月日は変わらないから』と言われてまたびっくり。
その先輩は嫌われてはいなかったんですけど、サークル内ではなんとなく敬遠されていました。
その場の空気に関係なくニヤニヤしたり、生年月日トークをしてきたり、かと思ったら急に女子に告白して、ストーカーまがいのことをしたりしたので……」(文学部3年女子)
東大医学部にまつわる、一つの伝説がある。
「実は医学部出身者の2割近くが『発達障害』だと言われているんです。
実感としてはもっと多いかもしれません」(医学部4年)
もちろん、明確なデータが存在するわけではない。
しかし、東大OBでもある精神科医の吉田たかよし氏はこう断言する。
「東大に発達障害が多いというのは事実です」
吉田氏は東大の本郷キャンパスの真ん前、本郷赤門前クリニックで発達障害に悩む受験生のカウンセリングを行う。
氏は、相談に来た発達障害の学生に、東大受験を勧めている。
理由は、東大生はお互いを尊重する傾向が強く、低レベルないじめは起きにくい、というのがひとつ。
そしてもうひとつが、「東大の入試は、実は発達障害の生徒に向いているから」(吉田氏)だというから驚きである。
なぜ発達障害の生徒に東大入試が向いているのか、それを記す前に発達障害についておさらいしておく。
発達障害とは、落ち着きがなく、注意力に欠けるADHD(注意欠陥・多動性障害)や、コミュニケーション能力や社会性に難がある自閉症やアスペルガー症候群、あるいは読み書きが困難なLD(学習障害)などの総称だ。
生まれつき、あるいは幼児期の段階において脳の発達が損なわれることで、前述のような様々な症状が現れる、脳機能障害である。
’06年の厚労省の調査によれば、5歳児の8・2%~9・3%に発生し、近年では大人になって発達障害に気づく「大人の発達障害」が社会問題化している。特に有名なのがアスペルガー症候群だ。
「アスペルガー症候群の人たちは、集団の中で人に合わせることができません。
相手の感情や、その場の雰囲気を読むことが不得手だからです。
どの局面でも人に合わせる能力が問われる現代社会では、彼らは非常に生きにくい」(吉田氏)
IQが高いアスペルガー
その一方で、アスペルガー症候群の人々には、IQが高い傾向がある。
一般人のIQの正常値は85以上115未満と言われる。
だがアスペルガー症候群の人々には、115以上のIQを示す人が少なくないのだ。
本題に戻る。なぜ発達障害の人は東大に向いているのか。吉田氏が説明する。
「まず東大受験において最重要科目とされる数学。
知能の高い発達障害の人は論理思考が得意な傾向があるので、数学を苦にしません。
次に英語ですが、東大英語の特徴は、とにかく分量が多いこと。
多くの受験生はアップアップしてしまい、すべての問題を解くことさえ困難です。
ですが、彼らは反復作業が得意なので、疲れを感じずに解答することができる。
最後に国語です。彼らは他人の気持ちを理解することが困難なため、国語は非常に苦手とすることが多い。
しかし東大の国語では、物語文が出題されないため、論理思考でカバーできてしまうのです」
まるで招き入れるかのように、東大の入試は発達障害の人向きにできている。
東大卒で、アスペルガー症候群を自認するA子さんの告白を聞いてみよう。
「人の気持ちがわからない、ということに気づいたのは中学生の頃でした。
自分では仲良しだと思っていた子にべったりしすぎて、避けられてしまったんです。
?考えてみたら、それまで『他人の気持ち』が存在するということさえ認識していませんでした。
それから自分はみんなに嫌われていると思って、うつになりました。高校に進学した頃、親の勧めで心療内科に通院を始めました」
A子さんはしかし、勉強は圧倒的にできた。地元では神童としてちやほやされ、「一度見たページは忘れない」記憶力には誰もが舌を巻いた。
その後、さほど労せず東大に合格し、上京を果たす。
そして東京の心療内科で初めて、アスペルガー症候群だと診断された。
「東大に入ったら、ふっと楽になりました。
地元が嫌いなわけではないけど、怖い。東大にくれば、私は特別じゃない。
誰も私に構わない。処方された薬を飲まない日が増えました」
学生が2割、という伝説に加えて、東大医学部教授のこんな証言がある。
「私見ですが、生徒以上に教授に発達障害の人が多いのではないでしょうか。
私は東大教授の半分はアスペルガー症候群だと思っています。
教授会などで日々接していて、あまりに頑固で、短気で、空気を読まないので、教授ではなくて患者と接しているのではないか、と錯覚することがよくあるからです。
ただ、発達障害はその症状によって本人が困っていないと、『障害』とは認定されません。
ですから、大学教授という人が羨むポストに就いて、しっかり社会的成功をおさめている以上、彼らがいくら発達障害の症状で周りを困惑させても、発達障害とは認定されないわけです」
発達障害を抱えていて、A子さんのように気づくケースもあれば、こうした教授たちのように気づかずに生きていくケースもある。
ひとつだけ言えるのは、発達障害の人にとって、東大医学部は、「比較的生きやすい場所」なのかもしれない、ということである。
<つづきはこちら:「アタマはいいけど腕はイマイチ 東大理Ⅲのテスト 東大医学部(理Ⅲ)に合格した人たち」>